シェイク・モハメド購買馬から見る、ホットな注目種牡馬

 7月の第4週目、シェイク・モハメドに連なる競馬組織が日本とアメリカで10頭の若駒をリクルートした。20日・21日の両日、アメリカのケンタッキー州で開催された「ファシグティプトン・ジュライ・セレクテッド・イヤリングセール」で、代理人を通じて6頭の1歳馬を、22日に北海道の静内で行われた「セレクションセール・当歳」で、ダーレー・ジャパンが4頭の当歳馬を購買したのである。

 まずは、ケンタッキーの「ファシグティプトン・ジュライ」で購買された6頭から御紹介していこう。

 代理人リチャード・オゴーマン氏の名前で11万5000ドルで落札された、上場番号50番の牡馬(母ワイルドキャッツアイ)。父は、G2サンフェリペSやG2ラホイヤH勝ち馬で、この世代は初年度産駒となる若手種牡馬のエーピーウォリアー(父エーピーインディ)である。母は3勝馬だが大きなレースでの勝利はなく、兄姉にも目立った活躍馬は出ていないという、地味めの血統ではあるが、馬体の良さに惹かれての購買であったようだ。

 セール初日としては2番目の高値となる35万ドルで購買されたのが、上場番号169番の牡馬(母リファーズデルタ)。父は、このコラムでも御紹介したことのある、今年の1歳が初年度産駒となる期待の新種牡馬バーナーディーニである。5月生まれのため、現状ではややサイズが小ぶりな点を除けば、父に極めて良く似たタイプに出た本馬。姉にG1ガーデンシティH勝ち馬インディファイヴハンドレッドがいて、母もグッドウッドのG2ナッソーS優勝馬という、この市場では屈指の良血馬である。ちなみに姉のインディファイヴハンドレッドも、2007年のファシグティプトン・ノベンバーセールにキングマンボを受胎した状態で上場された際、300万ドルで購買されてダーレーの所有馬となっている。

 セール初日としては最高価格の40万ドルで購買されたのが、上場番号228番の牡馬(母スルースマーツ)だ。父は、今年3歳の初年度産駒から、ケンタッキーダービー馬マインザットバード、ベルモントS勝ち馬サマーバードが出て、北米で最もホットな種牡馬の1頭となっているバードストーンである。近親に目立った活躍馬のいない本馬は、今年1月に開かれたキーンランド・ジャニュアリーセールで、わずか3万7000ドルでピンフックされた馬であった。馬体の出来が素晴らしく、かつ、父が一躍人気種牡馬となったことで、下見に訪れる購買者が引きも切らず、販売者のダップルズスタッドは「20万ドルは行くのではないか」と期待していたそうだが、なんと最終的な落札価格は40万ドルに。仕入れ値の10倍以上で転売したダップルスタッドにとっては、笑いの止まらぬ夜となった。

 2日間を通じて最高価格となる42万5000ドルで購買されたのが、上場番号250番の牝馬(母ティングアフォリー)だ。こちらも父は、プリークネスS、ハスケル招待Sと、既に2度にわたって牡馬を破ってG1制覇を成し遂げ、稀代の女傑と言われているレイチェルアレクサンドラを筆頭に、G1エイコーンS勝ち馬ギャビーズゴールデンギャル、G2ブラックアイドスーザンS勝ち馬ペイトンドローなど、今年3歳の初年度産駒から続々と活躍馬が出て、北米随一の人気種牡馬となりつつあるメダグリアドローである。牝系はアルゼンチン血統で、母はアルゼンチンで重賞3勝、叔父にもアルゼンチンのG1勝ち馬がいるという、活力あるファミリーを背景としている。

 23万ドルで購買されたのが、上場番号428番の牝馬(母ルルワ)だ。父は、2歳G1ハリウッドフューチュリティ勝ち馬ストーメロをはじめ、スピード豊かな産駒を多く輩出しているストーミーアトランティックである。母にとって初めての産駒となる本馬だが、G3ジャージーS勝ち馬リヴァーディープ、G3タンフォランH2着馬ドリーマー、ロイヤルアスコットのLRチェシェイムS勝ち馬ベルグレイヴィアなど、母の兄弟に活躍馬がたくさんいる実用的なファミリーである。

 15万ドルで購買されたのが、上場番号491番の牝馬(母リミニロード)。父は、2008年にG1ケンタッキーオークスなどを制して全米3歳牝馬女王となったプラウドスペルらを輩出しているプラウドシティズンである。母の父がロベルト系のダイナフォーマーだから、芝にも適性のある馬かもしれない。

 続いて、北海道の「セレクションセール」にて、ダーレー・ジャパンが購買した4頭の当歳馬を御紹介しよう。

 まずは、930万円で購買された上場番号327番の牝馬(母シェーラザード)は、今夏にオープンのKBC杯を勝ったマルブツリードの妹だ。天皇賞馬バブルガムフェローや、菊花賞馬ザッツザプレンティらと同ファミリーとなる本馬。父は、朝日杯FS勝ち馬フサイチリシャールや、スプリンターズS勝ち馬スリープレスナイトらを輩出しているクロフネである。

 セールの当歳セッションでは3番目の高値となる2000万円で購買された、上場番号349番の牡馬(母セクレゴールド)。父は、現役時代にドバイデューティフリー、宝塚記念、ジャパンCと3つのG1を制し、今年の当歳が初年度産駒となる期待の若手種牡馬アドマイヤムーンである。当セールでは、2番目の高値となる2600万円で購買されたのも、上場番号361番の父アドマイヤムーンの牡馬だったから、アドマイヤムーンの初年度産駒は市場で非常に高く評価されていると言ってよさそうだ。本馬は、伯父に北米の名種牡馬ゴーンウエスト、欧州で重賞3勝のライオンキャヴァーンがいるという、世界的良血馬である。

 1750万円で購買された上場番号367番の牡馬(母ダーケストスター)は、G1JBCスプリント勝ち馬サウスヴィグラスの半弟である。サウスヴィグラスは父がエンドスウィープだったが、本馬は、ドバイワールドCの勝ち馬で、今年の2歳が初年度産駒というロージズインメイに父が替わっている。近親には、安田記念やスプリンターズSを制したブラックホーク、NHKマイルCを勝ったピンクカメオ、帝王賞勝ち馬マキバスナイパーらといった大物がおり、本馬も大きいところを狙う馬に育つことが期待される。

 810万円で購買された、上場番号393番の牡馬(母フィジーガール)。父は、今年の宝塚記念を制したドリームジャーニーらを輩出しているステイゴールドである。母は、これまで登録された6頭の産駒が全て勝ち馬になっているという堅実な繁殖牝馬で、本馬も確実に走ってくる馬であろう。

 ちなみに、4頭を合計5490万円で購買したダーレー・ジャパンは、セレクションセール・当歳セッションの、トップバイヤーであった。

 世界の競走馬サーキットはこの後、ファシグティプトン・サラトガ(8月10日・11日)、アルカナ・ドーヴィル(8月14日~17日)と、イヤリングセールのプレミア市場が開催される。ここで、モハメド殿下に連なる競馬と生産の組織がどんな戦力補強を行うか、後日このコラムで御報告させていただきたいと思っている。

(合田直弘)