シェイク・モハメド&ファーブル師のコンビが快進撃

 フランスにおけるシェイク・モハメド軍団が好調である。まずは、革命記念日の7月14日にロンシャン競馬場で行われた、3歳のG1パリ大賞(2400m)。長くフランス版のダービーという位置づけにあった、シャンティー競馬場で行われるジョッキークラブ賞の距離が、2005年から2100mに短縮されたため、昨今では「このレースこそ、フランスのダービー」と捉える関係者が増えてきた。

 今年その勝ち馬となったのが、モハメド殿下の所有馬カヴァルリーマン(牡3歳)だった。 ダーレーの生産馬で、アンドレ・ファーブルが管理する同馬。2歳時は、デビュー2戦目に初勝利を挙げて終了。3歳初戦のサンクルーの準重賞フランソワマテ賞で4着となった後、ダービープレップのG2グレフュール賞で重賞に初挑戦し、同じくモハメド殿下が所有しファーブル調教師が管理するカットラスベイの2着に健闘。続くサンクルーの準重賞マッチェム賞で今季初勝利を挙げた後に挑んだのがG1パリ大賞で、仏ダービー4着馬ベーシュタムや、エイダン・オブライエンが送り込んだG3英ダービートライアルS勝ち馬エイジオブアクエリアスらを退けて、重賞初制覇をG1で飾る快挙を成し遂げた。

 カヴァルリーマンの父は、英国のダルハムホール・スタッドで供用されているホーリング。現役時代は、サンダウンのエクリプスS、ヨークの英インターナショナルSをいずれも連覇し、10fのスペシャリストと言われた馬である。前出のグレフュール賞勝ち馬カットラスベイもホーリング産駒で、今季は好調なシーズンを過ごしている。

 カヴァルリーマンの次走がどこになるか、現時点では未定だが、パリ大賞の直後に大手ブックメーカーのラドブロークスが、凱旋門賞の前売りで15倍の5番人気に支持するなど、評価が急上昇している。

 同じ7月14日のロンシャンでは、2歳馬の準重賞ローランドシャンブール賞も行われ、ここでもモハメド殿下所有のコロニアル(牡2歳)が勝利を収めている。

 カヴァルリーマンと同じく、ダーレー生産でファーブル厩舎所属の同馬。5月19日にシャンティーで行われた距離1000mのメイドンでデビューし2着。続いて6月7日に同じシャンティーで行われた距離1200mのメイドンを5馬身差で圧勝し、関係者やファンの耳目を集める存在となった。デビュー3戦目がローランドシャンブール賞で、距離1400mのここも危なげないレース振りで通過。フランスにおける2歳チャンピオン争いのトップグループに食い込むとともに、来季のクラシックへ期待が膨らむ存在となっている。

 父は、アイルランドのキルダンガン・スタッドで供用中のケープクロス。既に欧州のトップサイアーとして確たる地位を築いている馬だが、今年の3歳世代から英国2冠馬シーザスターズが出て、「普通の名種牡馬」から「歴史に残る大種牡馬」へと評価が改まることになった、偉大なる父親である。

 母は、ロイヤルアスコットのG1コロネーションSで2着になるなど、マイル戦線で活躍したエリザベスベイ。その母ライフアットザトップは、北米でG1マザーグースSを制しているという、活力ある牝系の出身だ。兄に、北米で走り、G3リヴァーシティHを制した他、G1フランクキルローマイル2着の成績を残したバイユーがいるから、エリザベスベイは母としての優秀性も存分に発揮している。

 距離適性として、少なくとも1600mは間違いなく持つ血統だけに、今後その動向を注視したい若駒と言えよう。

 コロニアル同様、父にケープクロスを持つ牡の2歳馬がフランスでデビュー勝ちを飾ったのが、7月16日だった。この日、コンピエーヌ競馬場で行われた距離1400mのメイドンを制したのは、カヴァンゴー(牡2歳)。馬主シェイク・モハメドで、生産がダーレー、管理調教師がアンドレ・ファーブルというのも、コロニアルとまったく同じ陣容である。

 カヴァンゴーの姉に、アイルランド生まれのサンデーサイレンス産駒で、ニューマーケットのG2チェリーヒントンSを制したサイレントオナーや、ロイヤルアスコットのG2リブルスデイルS勝ち馬シルクウッド(父シングスピール)がいて、祖母のマサラートはフランスが誇る伝説の名牝ミエスクの全妹という牝系だ。

 コロニアル同様、こちらもどんな競走馬に育っていくか、その進化を見守っていきたい逸材と言えよう。

 同じ7月16日のコンピエーヌ競馬場では、シェイク・モハメドが所有するマラヴィータ(牝3歳)という馬もデビュー勝ちを飾っている。こちらは、ゲインズボロー・スタッドが生産した父シングスピールという3歳馬で、管理するのはアンリ・アレックス・パントールだ。

 3歳年上の半兄に、G3セントサイモンS勝ち馬クライムシーンがいて、祖母パッシングヴァイスは北米で走ってG3ベイドウオークスを制した他、G1ハリウッドスターレットSで2着となっている活躍馬である。

 デビューが遅れたマラヴィータだが、道中4番手からあと100mで先頭に立ち、そこから後続に1馬身半の差を付けたレース振りは見事で、秋に向けての飛躍が期待される。

 なお、マラヴィータの母クライムは、2006年のタタソールズ・ディセンバーセールに上場され、日本の商社JSカンパニーが12万5000ギニーで購買。2007年春に日本で生まれた父レッドランサムの牡馬が今年2歳を迎えており、美浦の国枝厩舎からデビューの予定と言われている。

 夏から秋にかけて、フランスにベースを置くダーレー関連馬による快進撃が見られそうだ。

(合田直弘)