日本馬のライバルは? 凱旋門賞の注目馬を一挙紹介

 6月28日に阪神競馬場行われる前半戦の総決算・宝塚記念には、10月4日にロンシャン競馬場で行われる欧州の総決算・凱旋門賞への1次登録を済ませた馬が2頭出走する。昨年のダービー馬ディープスカイと、昨年のジャパンC勝ち馬スクリーンヒーローだ。

 この2頭に加え、この春に桜花賞とオークスを連覇した3歳牝馬ブエナビスタも参戦を決めている今年の凱旋門賞は、ディープインパクトが挑んだ2006年以来3年ぶりに、日本の競馬ファンにとって近い存在となりつつあるようだ。

 既に昨年の秋から今年の凱旋門賞の前売りをスタートさせている英国のブックメーカーが、現段階で5倍前後のオッズを掲げて1番人気に推しているのが、この春に英国の2000ギニーとダービーを連覇し、1989年のナシュワン以来20年ぶりの2冠を達成した3歳馬シーザスターズである。その実績から当然の人気とも言えるが、実はシーザスターズにとって現段階における最大の焦点は、凱旋門賞よりもむしろ、9月12日にドンカスターで行われるセントレジャーで、1970年のニジンスキー以来39年ぶりとなる3冠に挑むかどうかにある。

 シーザスターズの父は、アイルランドのキルダンガン・スタッドで繋養されているケープクロスだ。ケープクロス自身は現役時代マイラーで、ニューバリーのG1ロッキンジS優勝が勲章だった馬である。さらにその父グリーンデザートは、現役時代ニューマーケットの6fのG1ジュライCを勝っているスプリンター。そしてケープクロスの母パークアピールも、6fのG1チーヴァリーパークSの勝ち馬だから、スピードのエッセンスに溢れた血脈と言えよう。

 さらに種牡馬としてのケープクロスも、1200mから1600mのG1を7勝し、2年連続でニュージーランドの年度代表馬に選ばれただけでなく、ワールドサラブレッドランキングの芝スプリント部門古馬牝馬世界第1位の称号を獲得したシーチェンジを筆頭に、父の特性を素直に受け継いだ活躍馬を多数輩出している。

 だがその一方で、種牡馬ケープクロスの代表産駒を1頭挙げよと問われれば、100人のうち99人は、英愛オークスをはじめ世界4カ国で7つのG1を制し、欧州の年度代表馬の座に2度就いたウィジャボードの名を口にするだろう。最適距離は10fだったウィジャボードだが、12fが守備範囲内にあったことは実績から明らかだ。そして今年、英ダービー馬シーザスターズを輩出したケープクロスは、基本はスピードにあるものの、距離に融通性があって、様々な路線で底力に満ちた超大物を送り出す、類稀なる多才な大種牡馬としての地位を確立したと言えよう。

 それでは、シーザスターズのセントレジャー(距離14f132y)参戦は実現するのかと言えば、管理調教師ジョン・オックスは目下のところ否定的だ。ダービーですら距離を心配した馬で、セントレジャーに挑むというのは「ちょっと考えづらい」というのが、ダービー直後のオックス師のコメントだったのだ。

 シーザスターズの今後の路線を占う上で、もう1つのポイントとなるのが、馬場状態だ。渋るよりは乾いた馬場の方が向いているというのがオックス師の判断で、ダービー参戦前も道悪になるようなら回避すると宣言をしていたし、ダービー直後のローテーションも、馬場が良ければ愛ダービー、道悪になるようなら1週待って10fのG1エクリプスSに向かうという基本方針が打ち出されている。

 ここで話を、凱旋門賞に戻そう。雨が多いことで知られる秋のパリを舞台とするだけに、パンパンの良馬場はまず望めず、過去10年のうち6年は重馬場での競馬となっている。果たして道悪になっても、シーザスターズは凱旋門賞に出てくるのか!? ブックメーカー各社は本命にしているものの、出否を含めて動向は流動的と言えそうだ。

 各社が、凱旋門賞へ向けた前売りで6倍から7倍のオッズで2番人気に支持しているのが、スタセリータ(父モンズン)だ。デビュー戦から仏オークスまで無敗の5連勝で突っ走り、一部で早くも「ザルカヴァの再来か」との声が上がっている3歳牝馬である。

 そんな凱旋門賞のアンティポスト戦線で、ここへ来て急浮上を見せているのが、フランス調教の3歳牡馬カットラスベイ(父ホーリング)である。UAE産馬で、母ダニスリヴァーもモハメド殿下のオーナーブリーディングホース、祖母エリザベスベイもモハメド殿下の服色を背負ってジャックルマロワ賞やメイトリアークSといったG1で好走した馬という、ダーレー縁(ゆかり)の血脈を背景に持つ馬だ。

 フランスのアンドレ・ファーブル厩舎に所属し、昨年10月にアルゲンタンの一般戦(2000m)でデビュー勝ち。今季初戦となったフォンテンブローの一般戦(2000m)も快勝。続いて5月12日にサンクルーで行われたG2グレフュール賞に挑んだカットラスベイは、フランキー・デットーリを背にここも白星で通過し、デビューから負け知らずの3連勝で重賞初制覇を果たした。

 グレフュール賞と言えば、仏ダービーへ向けた重要なプレップレースの1つだが、もともと仏ダービーの登録がなかったことに加え、レース後にフランキーが「道中負ける気がしなかったけど、まだまだ馬が幼いね」と発言。無理をさせる時期では無いとの判断があったのか、仏ダービーは自重することになった。

 そんなカットラスベイを、13倍の6番人気に掲げているベットフレッド社、17倍の6番人気に掲げているウィリアムヒル社など、ブックメーカー各社が高く評価するのは、血統的にも今後の上昇がおおいに見込めるからであろう。父ホーリングは、4歳時・5歳時とインターミディエイトの距離コラムで欧州古馬チャンピオンとなった晩成型の名馬である。その適距離は10fだったが、産駒からは、3000mのG2ユベールドショードネイ賞の勝ち馬で、古馬になってアスコットゴールドC(G1、20f)で入着したコースタルパスのように、距離伸びて良さを発揮する子も多く出ている。ひと夏越しての12f戦なら、春の活躍馬を一網打尽にする可能性ありと考えるファンが多くいて、何ら不思議はないのである。

 さてそれでは、冒頭に掲げた日本調教馬たちに、ブックメ-カー各社はどのようなオッズを付けているのだろうか。

 6月22日現在で最も高評価なのが、ディープスカイだ。ブルースクエア社が、21倍の11番人気に掲げている他、大手のコーラル社も26倍というオッズを提示している。これに続くのが、ブルースクエア社で26倍、ベット365社で41倍というオッズが提示されているスクリーンヒーロー。

 それでは、3歳牝馬のブエナビスタはと言うと、オッズを掲げて発売しているブックメーカーが見当たらないのが現状だ。1次登録はあるものの、3歳牝馬が本当にフランスまでやってくるのか。そして、どれだけの能力を持つ馬なのか。現段階ではヨーロッパのファンには判断材料が無く、従って賭けの対象になっていないというのが実情であろう。(スクリーンヒーローやディープスカイは、1・2着した昨年のジャパンCが、彼らの物差しとなっているはず)。

 逆に言えば、今なら極めておいしいオッズでブエナビスタの単勝を受け付けてくれるブックメーカーがあるはずで、英国にお出かけの機会がある方には、今のうちにブエナビスタの馬券を購入されることをお勧めしたい。

(合田直弘)