欧州2歳戦線 ~牝馬編~

 前回は牡馬編をお届けした欧州2歳戦の回顧。今回はその牝馬編をお届けしたい。

 英1000ギニーへ向けた前売りオッズで、ブックメーカー各社が4倍から6倍のオッズで1番人気に推しているのが、スペシャルデューティー(牝2歳、父ヘネシー)だ。カリッド・アブドゥーラ殿下のジャドモンドファームによる自家生産馬で、おばにアメリカで6つのG1を制したサイトシーク、同じくおばにアメリカでG1・2勝のテイツクリークがいるという牝系だ。管理するのはフランスのクリケット・ヘッド・マーレクで、10月2日にニューマ-ケットで行われた6fのG1チーヴァリーパークSを快勝している。

 そのチーヴァリーパークSで本命に推されていたのが、レディーオブザデザート(牝2歳、父ラーイ)だ。01年のチーヴァリーパークSを含めて5戦5勝の成績で引退したクイーンズロジックの4番仔で、クイーンズロジックの弟に凱旋門賞などG1・6勝のディラントーマスがいるという、大変な良血馬である。キングジョージの日にアスコットで行われたG3プリンセスマーガレットSで重賞初制覇を果たし、続くヨークのG2ロウザーSも3馬身差で快勝し、チーヴァリーパークSでは2.375倍の1番人気に支持されていた。管理するブライアン・ミーハン師によると、ニューマーケット特有のアンジュレーションに戸惑ったそうで、ここは3着に敗れたが、素質のある馬であることは間違いない。来年春は、コース適性を鑑みて、アンジュレーションの少ないフランスの1000ギニーに向かうことが検討されているようだ。

 チーヴァリーパークSにおける敗退組では、サンドヴィクセン(牝2歳、父ドバウィ)も見限れない存在である。今年4月のタタソールズ・ブリーズアップセールにて13万ギニーで購買されて、ゴドルフィン所属となった同馬。9月11日にドンカスターで行われたG2フライングチルダーズSを快勝し、チーヴァリーパークSでは3番人気に支持されていた。父ドバウィはこの世代が初年度産駒となるが、既に25頭が勝ち馬となって31勝をマークし、フレッシュマンサイアーランキングの勝ち鞍部門を独走中だ。チーヴァリーパークSでは、レディーオブデザート同様に初めてだったニューマーケットの馬場に戸惑ったのか敗退したが、あるいは短距離路線に向かう可能性がある来季のこの馬も、目が離せない存在と言えよう。

 それにしてもタタソールズ・ブリーズアップセールは、この馬以外にも、BCジュヴェナイルを制したヴェイルオブヨーク(牡2歳、父インヴィンシブルスピリット)や、11月14日にフランスで行われたG1クリテリウムドサンクルーに勝ち、来年のダービーの有力候補に躍り出たパッションフォーゴールド(牡2歳、父メダグリアドロー)など、今年の出身馬からも続々と大物が出現。ますます見逃せない市場になりつつあるようだ。

 9月26日にアスコットで行われた、「オークスへの登竜門」と言われる8fのG1フィリーズマイルを制したのが、ヒバーイェブ(牝2歳、父シングスピール)である。8月にデビューし、メイドンを2戦していずれも惜敗に終わったものの、管理するクライヴ・ブリテン師が素質を高く評価し、次走はドンカスターのG2メイヒルSに出走。ここでも2着に惜敗すると、今度はG1フィリーズマイルにぶつけ、なんとG1で初勝利を挙げることになったのだ。ジャパンCを含めて世界4カ国で5つのG1を制した父に、母系はオーソーシャープのファミリーだから、いかにもクラシック向きの血統を持つヒバーイェブ。1000ギニーももちろんだが、オークスへの大きな期待をかけたい馬と言えよう。

 近年では、スペシーサ、フィンスケールビオといった馬たちが、このレースを勝って2歳シーズンを締めくくり、翌年の1000ギニー制覇につなげているのが、チャンピオンズデーにニューマーケットで行われる7fのG2ロックフェルSだ。今年は10月17日に行われた、この縁起の良いレースを制したのが、ミュージックショー(牝2歳、父ノヴェール)である。新馬、平場と連勝後、重賞初挑戦となったエアのG3ファースオブクライドSでは敗れたものの、距離を延ばして出走したロックフェルSで重賞初制覇を果たした。父ノヴェールは、昨年の仏ダービー馬ルアーブルを送り出しており、距離には融通性のある血統背景ではあるが、同じレースを勝った先輩たち同様、ミュージックショーもまずは1000ギニーを目指すことになろう。

 アメリカでデビューし、英国のロイヤルアスコットに遠征して重賞制覇を果たし、来季の英国クラシックの有力候補になるという、異色の履歴を辿ったのが、ジェラスアゲイン(牝2歳、父トリッピ)だ。4月3日にキーンランドで行われた距離4.5fのメイドンでデビュー勝ちと、極めて早い始動を見せた同馬。続くチャーチルダウンズのG3ケンタッキー・ジュヴェナイルSで2着となった後、複数の同厩馬たちと一緒に英国に遠征して5fのG2クイーンメアリーSに出走。芝のレースは初めてだったにもかかわらず、桁違いのスピードを発揮して5馬身差の圧勝。その後ゴドルフィン入りして、来年の英国クラシックを目指すことになったものだ。全姉に、05年のキーンランド・エイプリルで購買されて日本へ渡り、2勝した他、G3きさらぎ賞にも駒を進めたアスタートリッピがいるという血統。抜きん出たスピード能力でどこまで戦えるか、けだし見ものである。

 2歳時はメイドンを勝っただけだが、高い素質を示したことでブックメーカーの前売りでも上位にランクされ、来季を大いに嘱望されている馬もいる。

 例えば、10月31日にニューマーケットのメイドンでデビュー勝ちしたフィールドデイ(牝2歳、父ケープクロス)。コンデュイットらと同じバリーマコールスタッドの自家生産馬で、欧米両大陸で4つのG1を制したイズリントンらのいる牝系の出身。シーザスターズという怪物を出したケープクロスの仔が、ニューマーケットの新馬を素晴らしい競馬で制したとあっては、注目を浴びないわけがなく、キャリア1戦ながら1000ギニーで21倍から26倍、オークスで17倍から26倍のオッズが付けられている。

 この他、9月21日にケンプトンパークのオールウェザーのメイドンでデビュー勝ちを飾ったムワカバ(牝2歳、父イルーシヴクオリティ)、10月29日にリングフィールドのオールウェザーでデビュー勝ちを飾ったパドミニ(牝2歳、父タイガーヒル)なども、たった1戦だけで2歳戦線から撤退しながら、隠れたクラシック候補と目されている馬たちだ。

 こうした馬たちの血統を吟味し、ブックメーカーの前売りで早めに単勝馬券を仕込むというのが、英国における競馬ファンの冬場の楽しみなのである。日本でも、「アンティポスト・ベット」と呼ばれる長期前売りを楽しめる日が、早く来ぬかと待ちわびる筆者である。

(合田直弘)