来年のクラシックを目指す現2歳世代、戦線状況が明らかに

 10月24日(土曜日)、英国における今シーズン最後のG1として、2歳馬による8f戦「レーシングポストT(ドンカスター競馬場)」が行われた。シーズン閉幕までには、まだフランスで2つの2歳G1が開催予定だが、来年のクラシックを目指す現2歳世代の戦線状況がほぼ明確になったので、御紹介したいと思う。

今回は、牡馬編。

 現在、英2000ギニーと英ダービーのいずれにおいても英国ブックメーカー各社が本命に推しているのが、24日に行われたG1レーシングポストTの勝ち馬セントニコラスアビー(牡2歳、父モンジュー)だ。08年のタタソールズ・オクトーバーにて20万ギニーで購買され、エイダン・オブライエン厩舎に入ったアイルランド産馬で、ここまでの戦績はG1レーシングポストTを含めて3戦3勝。この世代では、頭2つ分ぐらい抜けた存在と見られている。

 そのレーシングポストTで2着に入ったのが、イルーシヴピンパーネル(牡2歳、父イルーシヴクオリティ)。7月にニューマーケットのメイドンでデビュー勝ちし、続いて8月にヨークで行われた7fのG3エイコムSを連勝して重賞初制覇を果たした馬である。レーシングポストTで初めての敗戦は喫したものの、管理するベテラン調教師のジョン・ダンロップは「来年になれば更に良くなる」とコメントしており、今後の成長が期待されている。ダーレー・アメリカにて供用中の父は爆発的スピードを持っていた馬だが、本馬はレースぶりから判断して距離延長大歓迎のタイプと見られており、目下ダービーの前売りで2番人気に支持されている。

 レーシングポストTの3着馬が、ゴドルフィン所属のアルジール(牡2歳、父メダグリアドロー)だ。兄に北米のG1フォアゴーS勝ち馬ミダスアイズがいるという良血馬で、今年3月のファシグティプトン・コールダーセールに上場されたところを、ジョン・ファーガソン氏に見いだされて160万ドルで購買された馬である。8月にニューマーケットのメイドンでデビュー勝ちし、続いて9月にドンカスターで行われた一般戦も連勝。一気に相手が強くなったレーシングポストTでは、内枠だったこともあり馬群に包まれる苦しい展開となったが、それでも3着に頑張ったあたり、相当の素質を感じさせてくれる馬である。ダービーの前売りで3番人気となっているこの馬が、ダーレー・アメリカ供用の父にとって、欧州に出現した最初の大物となりそうだ。

 ブックメーカーの「bet365」社が、ダービーの前売りで20倍のオッズを掲げてアルジールと横並び3番人気に推しているのが、ゴドルフィンのキングズフォート(牡2歳、父ウォーチャント)だ。G1ガルフストリームパークH優勝馬プリンスアーチの弟という血統ながら、ゴフスのオクトーバーセールで3万6000ユーロ(約500万円)という、アルジールの30分の1という驚くような廉価だったのは、父も含めたアメリカ血脈が愛国のバイヤーに敬遠されたのだろうか。6月にカラのメイドンでデビュー勝ちした後、9月にカラで行われた7fのG1ナショナルSを制してエリートコースに乗ったキングズフォートは、2000ギニーのオッズでも各社11倍から17倍の3~7番人気となっている。

 その2000ギニーのオッズで、多くの社がセントニコラスアビーに次ぐ評価をしているのが、いずれもハムダン殿下が所有するアルカノ(牡2歳、父オアシスドリーム)とアウザーン(牡2歳、父アルハース)の2頭だ。

 ハムダン殿下の自家生産馬アウザーンは、10月2日にニューマーケットで行われたG1ミドルパークSを含めて、6f戦ばかり4戦して負け知らずの4勝。一方、08年のタタソールズ・オクトーバーセールで9万ギニー(約1700万円)で仕入れたアルカノも、8月23日にフランスのドーヴィルで行われたG1モルニー賞を含めて、これも6f戦ばかり3戦して負け知らずの3勝。ともに、距離さえもてば、2000ギニーの有力な候補となる馬たちである。

 2歳時ここまで無敗で来ている大物として、これも高い評価を受けているのが、ツァイトオーパー(牡2歳、父シングスピール)だ。父が、モハメド殿下の臙脂の勝負服を背にジャパンCなど世界4カ国で5つのG1を制したシングスピールで、母がゴドルフィンの服色を背に英国の1000ギニーとオークスを連覇したカジア。全兄に、今年のG1ドバイシーマクラシックを制したゴドルフィンのイースタンアンセムがいるという、生粋のダーレー血脈を持つ馬である。9月16日にサンダウンで行われた8fのメイドン、10月3日にエプソムで行われた8f114yの一般戦、そして10月18日にロンシャンで行われたG3コンデ賞(1800m)と、3競馬場を転戦しながら重賞を含む3連勝。エプソムのコース経験があるのに加え、血統的にも12fはドンピシャリで、掛け値なしのダービー候補と言えよう。

 2歳世代のシングスピール産駒には、次回の牝馬編で詳しく触れる予定の、G1フィリーズマイル勝ち馬ヒバーイェブ(牝2歳)や、10月18日にドイツのケルンで行われたG3ヴィンターファヴォリッテン賞(1600m)を制したグラッドタイガー(牡2歳)という牡馬もいて、来年春の欧州3歳クラシックにはシングスピール旋風が起きる可能性も指摘されている。

 種牡馬で言えば、2000ギニーで17倍から26倍のオッズを付けられて10番人気前後となっているイクステンション(牡2歳)は、現在ダーレー・ジャパンで供用されているザールが欧州に残してきた産駒である。5月29日にグッドウッドのメイドンでデビュー勝ちと、仕上がりの早いところを見せたイクステンション。続くロイヤルアスコットのG2コヴェントリーSで2着となった後、7月29日にグッドウッドで行われた7fのG2ヴィンテージSで重賞初制覇。更に、10月17日にニューマーケットで行われた、英国における2歳王者決定戦G1デューハーストS(7f)でも、勝ち馬から首+鼻差の3着に健闘し、この世代でトップクラスの力量を持つ馬であることを実証している。固い馬場も渋った馬場もこなしており、信頼性の高い2000ギニー候補と言えそうだ。

 また、9月初旬のこのコラムで触れた、好調シャマーダル産駒のアークティック(牡2歳、G3ラウンドタワーS勝ち馬)やシェイクスピアリアン(牡2歳、G3ソラリオS勝ち馬)あたりにも、2000ギニーで21倍から34倍とオッズが付いており、目が離せない存在となっている。

 さて、次回のこのコラムでは、欧州における現2歳世代の情勢分析・牝馬編をお届けする予定だ。「アンティポスト」と呼ばれる3歳クラシックの前売り戦線は、欧州の競馬ファンにとって、芝の平地がシーズンオフに入る冬場の大きな楽しみとなっている。皆様も、ブックメーカー各社のオッズを、有力馬の血統やレースぶりとともに吟味しつつ、来年の春に思いを馳せる楽しみを味わってみてはいかがだろうか。

(合田直弘)