北米2歳戦線 ~牡馬編~

 前回、前々回と欧州2歳戦線の主役たちをご紹介した。となると、北米の2歳もご紹介しないわけにはいかない。

 今回は、その牡馬編。

 ケンタキーダービーの優勝馬には薔薇の肩掛けが贈られることから、「ラン・フォー・ローゼス」と呼ばれる戦線で、目下先頭を走っているのが、11月7日にサンタアニタで行なわれたG1ブリーダーズCジュヴェナイルを制した、ゴドルフィンのヴェイルオブヨーク(牡2歳、父インヴィンシブルスピリット)だ。今年4月にニューマーケットで行なわれたタタソールズ・クレイヴン・ブリーズアップセールに上場され、6万5000ギニーで主取りになった後に、ゴドルフィン入りした馬である。

 7月にヨークのメイドンでデビュー勝ちを飾り、続くG3エイコムSでは5着に敗れたものの、次走グッドウッドの準重賞スターダムSを快勝。翌年のダービーへ向けた登竜門の1つとされるアスコットの8fのG2ロイヤルロッジSが3着、イタリアのサンシロに遠征したG1伊グランクリテリウム2着と、トップレベルでの惜敗が続いた後、アメリカの2歳王者を決めるBCジュヴェナイルに駒を進め、ここで重賞初制覇を果たすことになった。

 つまりは、初めて走るオールウェザートラックで、いきなりの爆走を見せたわけで、しかも、ここまで無敗の4連勝で1番人気に支持されていたルッキンアットラッキーを退けての勝利だけに価値がある。なおかつ、直線で一旦前を塞がれ、外に持ち出して伸びて来るという競馬っぷりは、見た目以上の能力を感じさせるものであった。

 冬はドバイで過ごし、春に再渡米をしてケンタッキーダービーを狙うことになっているが、ドバイ調教馬でケンタッキーダービーを勝つというモハメド殿下の夢がかなうかどうか、おおいに注目されるところだ。

 父インヴィンシブルスピリットは、ヘイドックのG1スプリントCを勝っている快速馬で、今年も産駒からニューマーケットのG1ジュライCを勝ったフリーティングスピリットが出ているが、一方で、仏ダービー馬レイマンなども出ており、距離への融通性はある種牡馬である。ましてやヴェイルオブヨークは母の父が、今季G1パリ大賞勝ち馬カヴァルリーマンを出したダーレー供用種牡馬ホーリングで、祖母の父がサドラーズウェルズだから、距離延長に対する懸念はないはずだ。

 BCジュヴェナイルでは、大外枠が響き、頭差の2着に敗れたルッキンアットラッキー(牡2歳、父スマートストライク)も、まだ見限ることは出来まい。こちらは、キーンランド・エイプリルで47万5000ドルした高馬で、自在の競馬が出来るのが強みだ。ダービー3勝のボブ・バファートが、オールウェザーしか走ったことのないこの馬を、ケンタッキーダービーへ向けてどう仕上げてくるか。けだし見ものである。

 西海岸にはルッキンアットラッキーという軸となる馬がいるのに対し、混沌としているのが東海岸の2歳戦線だ。9月7日にサラトガで行なわれたG1ホープフルSを制したダブリン(牡2歳、父アフリートアレックス)が、続く10月10日にベルモントパークで行なわれたG1シャンパンSで5着に敗退。シャンパンSを制したホームボーイクリス(セン2歳、父ローマンルーラー)が、11月28日にアケダクトで行なわれたG2レムゼンSでやはり5着に敗退と、軸になる馬が定まらなかったのだ。

 そんな中、G2レムゼンSを制したバディーズセイント(牡2歳、父セイントリアム)は、まだ底を見せていないという点で期待度の高い馬である。9月26日にベルモントのメイドンでデビューし、先頭でゴールを駆け抜けながら、お行儀の悪い競馬で2着に降着。このレースぶりに素質を感じ取った陣営は、次走いきなりアケダクトのG2ナシュアSにぶつけ、ここをなんと12馬身差で制して初勝利。デビュー3戦目がレムゼンSで、ここも4馬身3/4差で快勝と、実質的には負け知らずでここまで来ているのである。

 母チュージアはG1パーソナルエンサインS2着の実績がある馬なのだが、08年のキーンランド・セプテンバーに上場された時にはブック3に編纂され、10万ドルというお手頃価格で購買されているから、当時は馬そのものが大した出来ではなかったのかもしれない。

 まだ本当に強い相手とは戦っておらず、真価が問われるのはこれからであろう。

 中部地区の代表格と目されているのが、11月28日にケンタッキーダービーの舞台でもあるチャーチルダウンズで行なわれたG2ケンタッキージョッキークラブSを5馬身差で制した、スーパーセイヴァー(牡2歳、父マリアズモン)だ。

 9月11日、デビュー2戦目となったベルモントパークのメイドンを7馬身差で制して初勝利を挙げた後、強気にぶつけたG1シャンパンSではハイペースで逃げて潰れ4着。デビュー4戦目の競馬となったのが、G2ケンタッキージョッキークラブSだった。ここでも逃げて、オープニングクオーターが23秒33、半マイル通過46秒75という速いラップを刻んだスーパーセイヴァーだったが、ここではゴールまで脚色衰えず、ワンサイドの逃げ切り勝ちで重賞初制覇を果たした。

 ウィンスター・ファームの自家生産馬で、近親にケンタッキーダービー2着馬ブルーグラスキャットがいる本馬。東海岸のトップトレーナーで、エクリプス賞を4度も授賞しながら、ケンタッキーダービーには縁のないトッド・プレッチャーが、この馬をどのように仕上げていくのかも、おおいに興味の湧くところである。

合田直弘